時たま、旅人

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自称世界遺産ハンターが行く!旅好き会社員の備忘録

巨大シナゴーグが見たユダヤの嘆き

 

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ブダペストにはヨーロッパ最大規模のシナゴーグ(ユダヤ教会)があります。ちなみに、エルサレムのベルツ・シナゴーグ、ニューヨークのエマニュエル・シナゴーグに次いで世界第3位の規模。プラハにもゴーレム伝説の残る新旧シナゴーグがありましたが、タイミングが悪くお休みとぶつかって中に入れなかったので、ここには絶対に行きたい!と思っていました。
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 お目当てのシナゴーグはペスト地区のドハーニ通りにありました。かつてのユダヤ人移住地区らしく、現在でも多くのユダヤ系住民が暮らしているようです。独特の服装のユダヤ教徒らしき人もチラホラと見かけ、これまで観光していたエリアとはガラッと雰囲気が変わってきました。

 

ドハーニ通りに面したところに、てっぺんに黒い玉葱がのったような2本の高い塔を持つ建物が見えてきました。ピンク色とベージュのストライプというムーア様式のユニークなデザインのこの大きな建物がわたしの目的地「ドハーニ街のシナゴーグ」。f:id:greenbirdchuro:20190522200426j:plain

 

ここは観光客も積極的に受け入れています。(もちろん、それなりの入場料が必要ですけど・・・。)その代わり、欧米の他のユダヤ教関連施設と同じように厳しいセキュリティチェックがあり、空港並みに手荷物検査をされます。しかも、何故だかわからないのですが、空港と同じく水や液体物の持ち込みが禁止されていました。f:id:greenbirdchuro:20190522200917j:imageユダヤ教では男性はキッパと呼ばれる小さな丸い帽子を頭にのせなくてはシナゴーグに入れません。頭頂部を隠すことで神への敬虔さを表すのだそうです。観光客にも紙で作られた簡易版のキッパが配られていました。このキッパ、ヘアピンで髪に留めるんですが・・・髪少なめの人は苦労していました。ユダヤ教徒で髪のない人って普段はどうやってキッパを被ってるんでしょうね

 

礼拝堂の中に入るとまずその大きさに圧倒されます。シナゴーグにかなりの奥行きがあることがわかります。3階席まである礼拝席はまるで劇場のようで3000人が収容できるそうです。これまで見たシナゴーグでは男女の祈りの場が厳密に区切られている正統派のものが多かったのですが、ここは改革派なので、男女の信者を隔てる仕切りがありませんでした。f:id:greenbirdchuro:20190522200912j:image高い天井から吊られているシャンデリアのデザインも礼拝堂の雰囲気にとてもしっくりきています。

祭壇の後ろにはオルガンが設置されていて、髪を振り乱した激しい演奏スタイルの彫像が記憶に新しいフランツ・リストも弾いたことがあるんだそうです。f:id:greenbirdchuro:20190522200915j:imageユダヤ教はイスラム教と同じく偶像崇拝を禁止しているので、中央祭壇に誰かしらの像があるわけではありませんが、祭壇にかかるカーテンの向こうには聖典の巻物が収められています。ここにはナチスの攻撃によって破壊されたシナゴーグの聖典も一緒に収められているそうです。

 

天井や壁だけでなく床のタイル装飾にも幾何学模様が施され、聖堂内を埋め尽くしています。そして、聖堂のあちこちにユダヤ教のシンボルダビデの星がありました。f:id:greenbirdchuro:20190523132358j:image

 

このシナゴーグのご自慢は、聖堂のお隣の建物でイスラエル建国の父ヘルツルが生まれたことだそうです。ハンガリーがオーストリア領だった1860年にこの聖堂のお隣で生まれたヘルツル・ティヴァダルはユダヤ軍人の冤罪事件を取材した新聞記者時代にユダヤ人国家の建設を夢見るようになりました。ヨーロッパ中のユダヤ人に「祖先の土地シオン(エルサレム)へ還ろう!」と呼びかけるシオニズムを始め、これが1948年のイスラエル建国へとつながっていきます。

ヘルツルの生まれた建物はユダヤ博物館になっていて、ハンガリーのユダヤ教徒の宗教・歴史・生活・歴史・芸術に関する展示がされていました。もちろん、そこには切り離して語ることの出来ないホロコーストに関する資料も・・・。f:id:greenbirdchuro:20190522200436j:plainf:id:greenbirdchuro:20190522200443j:plainf:id:greenbirdchuro:20190522200449j:plainf:id:greenbirdchuro:20190522200452j:plain文字が読めなくて意味不明だったものも多かったけど、直感的に感じるものもあり、多少なりともユダヤの歴史や文化に触れる事が出来た気がします。

 

中庭は一寸の隙もなく整備され、不思議な違和感を覚えました。中庭らしい長閑さやホッとするような雰囲気の代わりに言い表し難い虚しさが漂っているというか・・・。でも、すぐにその理由が理解できました。ここにホロコーストの犠牲者を含む2万人のユダヤ人が眠っているから。普通はシナゴーグにお墓を作らないものの、戦争中の大虐殺で引き取り手のない遺体があまりに多く、やむなく埋葬せざるを得なかったそうです。f:id:greenbirdchuro:20190522200608j:plain

中庭に面したドーム型の屋根は英雄のシナゴーグ。f:id:greenbirdchuro:20190522201650j:plain

花壇を縁取る縁石のように並んだ墓石には亡くなったユダヤ人の名前と共に誕生年となくなった年が記載されていて、自ずとその人の生涯の長さがわかります。予想以上に乳幼児が多かったことに驚きました。長生きしていれば良いということではないけど、何が起こっているのかも解らずに亡くなっていったと思うとやるせなくなります。彼らに自分がユダヤ人だという自覚があったはずもありません。f:id:greenbirdchuro:20190522200614j:plain

 敷地内にはお墓だけではなくて、ホロコーストの慰霊碑がいくつもあり、その前で祈りを捧げる人が途切れませんでした。f:id:greenbirdchuro:20190522200620j:plain感情を表現するでもなく、ただ黙って祈るしかない・・・そんな空気でした。

壁面を利用したお墓には、溢れんばかりの石が備えてありました。日本のお墓ならお花や食べ物ですが、ユダヤ教では永遠に朽ちることのない石を供えるそうです。f:id:greenbirdchuro:20190522200623j:plain

裏庭にある鮮やかな近代アートのステンドグラスも追悼モニュメントです。f:id:greenbirdchuro:20190522200631j:plain

出口の前には柳の木をモチーフにした金属製の木がありました。ハンガリーの現代彫刻家ヴァルガ・イムレの作品です。近づいて見ると、柳の葉の一枚一枚にホロコースト犠牲者のユダヤ人の名が刻まれていました。その人数は40万人・・・。一気に作品の迫力が増す感じです。生命の木という作品なんですが、連なる葉がユダヤ教徒の苦難の歴史を表しているようにも見えてしまいます。f:id:greenbirdchuro:20190522201831j:plain

 

建物の迫力に圧倒されて始まったシナゴーグ見学ですが、後半は苦難の歴史を改めて思い知ることになり、異教徒ながら最後までやるせない気持ちの連続でした。

 

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図説 ユダヤ教の歴史 (ふくろうの本)

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ブダペスト・シナゴーグの聖歌

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